INTERVIEW&COLUMN

2017.10.04

作品を作ることは人間がどう生きてきたか、もしくはどう生きていくのかを表現すること

『イン・ザ・ヒーロー』『百円の恋』などで知られる武正晴監督の連載コラム。

映画の存在意義とは。表現者として大事にすべき事とは。武監督が自身の経験をもとに、今の時代に映画業界で生きることについて考えます。

第1回目は、武監督が映画界に足を踏み入れたきっかけから、これからの映画界、その世界の中で表現をすること、について語っていただきました。

監督:武正晴

明大映画研究部。明治大学文学部在学中、映画研究会に所属し、自主映画を制作。
卒業後、助監督として工藤栄一をはじめ、崔洋一、石井隆、中原俊、本広克行、西川美和、李相日、中島哲也、井筒和幸らの作品に参加。07年、「ボーイ・ミーツ・プサン」で監督デビューを果たして以降、「カフェ代官山」シリーズ(08)や「EDEN」(12)、「モンゴル野球青春記」(12)などを監督発表。スーツアクターを主人公にした東映の「イン・ザ・ヒーロー」(14)で初めて大手映画会社配給による全国ロードショー作品を手がけた。その後も、山口・周南映画祭の松田優作賞(脚本賞)の第1回グランプリ受賞作「百円の恋」(14)などでメガホンをとる。
最新作「リング サイド ストーリー」10月14日公開
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待機作品「嘘八百」2018年1月公開
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ーー武監督はどのようにして映画業界に足を踏み入れたのですか?



学生時代、映画研究部の先輩に誘われてアルバイトでたまたま東映の撮影所に足を踏み入れたことがきっかけで、今も映画の仕事をずっと続けています。
生意気だったのでプロデューサーと言い合いになったこともあったし、現場では罵声が飛び交っていたし、関係者たちはめちゃくちゃなことを言って全然意味がわからなかったけど、そんな人たちを面白いと思ったし、純粋に楽しかったです。

それで、初めて映画の現場に携われる機会があって。
工藤栄一監督の『泣きぼくろ』という映画の撮影現場に行った時、自分が全く通用しない世界を目の当たりにして。
そこで自分は1番下っ端の仕事を3年間修行することを心に決めました。
学校に通っていたわけでもなかったので、そこしかチャンスがありませんでした。

たったワンカット取るために1日かけている姿を見たときは驚きました。
映画の出来上がりから逆算してイメージを持って映画の現場に望まないといけない、ということが初めて分かって。
仕上げまでやってみて、なぜ自分が現場で働いている人たちの言っていることがわからなかったか気づくことができました。

ーーとにかく映画が好きで、ずっと映画に触れ合っていたからこそ、開けた道なんですね。

会社に入るなんて考えてなかったし、ずっと映画見ていられないかなぁという思いが一番大きかったけれどね。

武監督は現代の日本映画についてどう考えていますか?

私は「日本映画」というカテゴリー分けにもうあまり興味がありません。
そもそも、日本の映画だとか海外の映画だとか分ける意味がないと思います。
映画は映画そのものとしてあって、別に線引きしなくていいし、面白い映画があってその監督がたまたま日本人だった、くらいの感覚でいいと思っています。
『リベリアの白い血』という映画を撮った福永壮志監督に先日会ったんですけど、彼のような人たちは、はなから世界に目を向けていて、外に出て勉強して、いろんな国や文化との関わりの中で題材も広いものを作っていて。
映画の表現に対してすごく真摯でグローバル的な捉え方も出来ているので、そういう人たちはこれから活躍していくと思っています。
俳優もどんどん外の世界に出て行って、いろんな国の映画や映画監督と繋がることで、パイプ役になることができると思います。

今更かよっていう話だけど、正直日本語の映画っていうだけでマイナスなわけですよ。
それでもいいんですけど、見てもらえる人の数が圧倒的に減ってしまいます。
日本人しか出て来ないとか日本語というだけでドメスティックな世界観の映画になってしまうし、映画というものはそこから抜け出してもっと広い世界観になっていくべきだと思います。
もちろん国内のものを大切にすることは自分たちのアイデンティティを尊重することになるので大事なことですが、映画というのはもっと多様な広がりがあってもいいんじゃないかなと思います。

作品を作るということは人間がどう生きてきたか、もしくはどう生きていくのか、ということを表現すること。
だから、俳優さんにはどう上手く演技するかではなくて、何を考えてどう生きていくのか、という部分を見せて欲しい、と思っています。

ーー生き方が役者に様々な可能性を生み出すということですね。こういう俳優と一緒に作品を作りたい、といったものはありますか?

俳優さん自身がその役柄に夢中になってくれるかどうかも大きいです。
台本を読んだ本人が他の仕事を蹴ってでもやりたいって言ってくれたり、この役は自分にしかできないって言ってくれたり。
もちろん技術的な部分で上手いことも大事なんですけど、今この作品にどれだけ賭けられるかの方が大切。
前にどんな役をやっているかということはあまり気にしません。
今目の前にある役にどれだけ入り込めるかどうかだと思います。

今や世界は本当にきついことだらけで、だからこそ映画は役立つんじゃないかと思っています。
映画が好きだということの前に、これを表現しないと私たちは明日から生きていけないんだっていう強い志から強い映画は生まれてきているので、世の中が厳しくなればなるほど、映画や芸術作品が役立つ可能性というのはまだまだあると思います。

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