寺山修司の長編小説を、菅田将暉&ヤン・イクチュンという実力派俳優が主演を務め映画化された『あゝ、荒野』。
本作でメガホンをとったのは、映画『二重生活』の岸善幸監督。
ワンシーンを長回しで何度も撮るなど、独特のカメラワークが印象的な岸監督からみる「いい俳優」とはどんな存在なのでしょうか。
岸監督が“天才的”と称した「自殺研究会」の主宰を務める俳優・前原滉さんと共に、お話を伺いました。

――本作では“実力派”と呼ばれる俳優さんたちが多数出演していますが、キャスティングについてお話しください。

岸監督:岸組は、撮影、技術、照明、助監督などスタッフはほぼ固定しているので、どんな現場かスタッフもプロデューサーも皆がわかっているんです。俳優からすると、結構過酷な現場であることは間違いなくて、それに耐えうる度量を持った人を、キャスティングプロデューサーにはあらかじめ選んでもらっているんです。その意味では、出演してもらう俳優はみなさん力のある方々だと言えますね。

――オーディションで選んだキャスティングはいるのでしょうか?

岸監督:(西口恵子役の)今野杏南さんや、(曽根芳子役の)木下あかりさんはオーディションです。どちらも大胆な濡れ場がある役だったので、そこを理解していただけることを前提に事務所さんに打診して、3日間に集まっていただいた13人の女優さんのなかから芳子は選んでいます。普通、オーディションの相手役は助監督がやったりするのですが、ちゃんとお芝居ができる人が欲しかったので、オーディションの相手役もしっかりした人にお願いしたかった。それでキャスティングプロデューサーが初日の相手役に前原君を連れてきました。

――前原さんはオーディションの相手役というオファーだったのでしょうか?

前原:そうなんです。キャスティングプロデューサーが以前お世話になった方で頼まれたのですが、前日に台本を渡されて、結構キスシーンとかもある役だったのですが、いきなりなんの演出もなく、相手役をやらされたんです。いま考えるとあれが一番きつかったかもしれません(笑)。しかもオーディションの最初の相手が、当時事務所の先輩だった木下あかりさんだったんですけど、ある意味で「もういいや」って開き直れました。僕は5人の女性の相手をしたのですが、同じ芳子という役でもアプローチ方法が全然違うので、相手役を受けていてとても面白かったです。

――オーディションではどういった部分を観ているのでしょうか?

岸監督:僕の現場はワンカット長回しが多くて、お芝居に対してあまり演出はしません。役者本人がしっかりと役のことを考えて表現してもらわないと困るんです。スケジュール的にもタイトですから、一つ一つ芝居を修正していると、僕らの組は成立しない。俳優としては、そこをしっかり理解した上で、想像力豊かに表現できるかが重要だと思っています。
そういう意味で、オーディションの相手役というアルバイト的な立ち位置だったのに、前原くんの演技が良かったんです。まだ決まっていない他の役もあって、それで彼に川崎敬三役をオファーしました。

――前原さんは、どんな気持ちでオーディションの相手役に臨んだのでしょうか?

前原:もちろん台本を読んでいましたし「あわよくば……」という下心はありましたが、それよりもやはりオーディションなので、相手の方を立たせなければいけないという「スタッフの一人」的な立場で臨んだ感じです。
でも相手役をしながら、オーディションって、自分がしっかり役に対して考えてきたものを出していかないといけないんだなということが実感できたので、自分にとってすごくプラスになりました。

――先ほど「前原さんの芝居が良かった」と岸監督はおっしゃっていましたが、具体的には?

岸監督:前原くんの演じた川崎敬三という役も、実は候補の役者さんは何人かいたのですが、うちの組はワンテイクワンテイク、シーンの頭から終わりまでカット割りしないで全部撮っていくんです。一度でOKを出すときもあれば、何度も何度もテイクを重ねることもあって、そういう現場で相手の芝居に合わせて、ずっと同じテンションで、キャラクターを保てる人ってそんなにいないんです。
それができる人を「力のある人」と表現するのですが、前原くんはオーディションで、まったく違うタイプの女優さん5人に対して、臨機応変にしっかり合わせることができていました。

――前原さんは川崎敬三の役柄のオファーを受けたときはどんなお気持ちだったのでしょうか?

前原:オーディションをお手伝いした時点で台本はある程度読んでいたのですが、ビックリしました。寺山修司さんの原作を読んだとき、川崎敬三という人物について、ボヤっと感じとれるものはあったのですが、とても難解でよく理解できないというのが正直な感想だったんです。その意味では、嬉しい半面、すごく怖くて不安でした。特に「自殺抑止研究会」のパートが、寺山修司さんの世界観が強く出ていると思ったので……。

岸監督:原作では、新次とバリカンが主軸で、それ以外の人は、突然出ては消えるという登場の仕方なんです。あとがきで寺山さんも、即興的に書いたと記しているんですね。この作品では、パズルのピースみたいな登場人物に脚本でつながりを持たせました。でも、正直、作っている僕らもわからない部分が多くて、手探りだったんです。そこを前原君がある意味助けてくれた。わからない部分を埋めてくれたんです。特に前篇のオーラスのステージは、本当に難しかったと思います(笑)。

――前原さんにとって岸組の現場はいかがでしたか?

前原:木下あかりさんとも話したのですが、やっぱり特殊な現場だと思います。でも二人とも特殊が好きなんです(笑)。順番をつけるのは良くないことですが、役者を初めて間もないときに、この現場を経験できて幸せでした。現場がこんなにも刺激的で楽しいものなんだって、すごく実感できた時間でした。

(取材・文・写真:磯部正和)

映画:『あゝ、荒野』

監督:岸善幸
脚本:港岳彦
原作:寺山修司
音楽:主題曲:岩代太郎、BRAHMAN
出演:菅田将暉、ヤン・イクチュン、ユースケ・サンタマリア、前原滉、木下あかり、木村多江、でんでん、モロ師岡
企画・製作:河村光庸、瀬井哲也、四宮隆史、宮崎伸夫、宇野康秀、山本浩、植田実
プロデューサー:杉田浩光、佐藤順子
製作・配給:スターサンズ
公式HP:http://kouya-film.jp/