INTERVIEW&COLUMN

2017.12.03

/// 子役対策 /// コミュニケーションの下準備

子供がいるのに、子供がちょっと苦手です。
嫌いなわけじゃない。かわいいとは思うけど、コミュニケーションをとるのが苦手なんです。
自分の息子にも「…誰や、こいつ!」と生後3日くらいは人見知りをしていました。

そんな苦手意識は子供にも伝わるもので、息子の送り迎えで保育園に行っても、人気があるのはいつも夫のほう。
よその子供や先生と楽しくおしゃべりをする夫をよそに、仏頂“妻”である私は無駄口厳禁とばかりに地蔵フェイスで風のように去っていくのです。

自分の映画では、一度だけ「アンダーウェア・アフェア」という短編で子役に出演してもらいました。でも当時は子供を持つ前だったし、何をどう話したらいいのかわからず、その子と上手くコミュニケーションを取ることができませんでした。
今にして思えば、その子や撮影におつき合い頂いたお母様に失礼だったし、何より苦手だなんだと寝言を言っていないで、作品を良くするためにもっと真剣にコミュニケーションを取るべきでした。

子供を連れて知り合いに会うと、みんな一様に子供に興味を示してくれますが、ちゃんとコミュニケーションを取ろうとしているか、社交辞令で「かわいい〜」とひと撫でするだけかは分かります。そして、なにより子供自身がいちばん見ているのです。

半年ほど前、息子と一緒に冨永昌敬監督の「素敵なダイナマイトスキャンダル」のエキストラをやったのですが、その現場の演出部さんの子供の扱いの上手さたるや!
「子連れで出勤するホステス」という設定だったので(なんちゅう設定…と思うかもしれませんが、見れば分かりますよ。2018年3月公開!)終始私が抱っこしていたのですが、それでも泣いたり騒いだりする息子。助監督さんたちはカットがかかるたびにやってきて、息子の機嫌をとってくれていました。
ちょっとしたシーンのエキストラなのに、しっかり遊んで子供を手なずける。そんなプロフェッショナルな仕事ぶりに大変感銘を受けたのでした。

では、どうやって子供とコミュニケーションをとればいいか?

息子のお迎えで幼稚園に行くと、おマセな女の子に「どうして目のところが緑なの?」とグリーンのアイラインをディスられることがあります。
ほかのお母さんの手前、面倒でも子供が納得しそうな返答をしなければなりません。
対大人であれば「ホリデーシーズンだからラメ入りのMac使ってるの〜」と軽くマウンティングするのもよし、「いつも同じメイクになっちゃうから、たまにはね〜、へへへ、、、」なんつって謙るふりをして会話を終わらせるのもよし。
ところが子供相手だと「……そういう人もいるんだよ」と会話の方向音痴に陥り、「つまらない大人にはなりたくない」という顔をされます。
子供の扱い強者である夫いわく、「生まれたときから緑なんだよ〜」「えー!ウソだー!!」と笑わせるが正解なのだとか。くそ、盲点だった…。

…それで、どうやって子供とコミュニケーションをとればいいか?

私が23歳ぐらいの頃、これといった仕事もなく、彼氏もおらず、たまにバイトに行くだけという日々を送っていました。
ある雨の日、コンビニでも行くかと傘をさして坂道を下っていると、向こうから傘をさしたヨタヨタのおばあさんが坂を登ってきました。
薄着で手ぶら。歩き方もおかしい。でも、とくに気に留めませんでした。
私たちの距離が5メートルくらいになった時、突然おばあさんが転びました。顔面から、思い切り地面に突っ込んだのです。
あまりのことにギョッとして、私の身体は硬直しました。
おばあさんが「うう…」と唸りながら顔を上げると、切れた唇から血が流れています。
私はやっと「…大丈夫ですか?」と超小音の言語を発し、震えながらおばあさんの傘を拾いました。
すると、うしろから30歳代のカップルが駆け寄ってきて、おばあさんを抱き起こし、「おばあちゃん、立てる?」「お家どこかわかる?」と声をかけました。
おばあさんは唸るだけで何も答えません。(おそらく)アルツハイマーを患っていて、一人で外に出てしまったようでした。 そのあとカップルは雨の中おばあさんを担ぎ、近くの交番に連れて行きました。
私は何もできず、彼らの後ろ姿を見ていました。

今でもその時のことを思い出して、胸がぎゅっとします。
あの時、どうして何もできなかったのか?
どうして「大丈夫ですか?」なんて何の役にも立たない言葉しか出てこなかったのか?
傘を拾うよりやることがあるだろうが…!
その時の私は、完全に閉じていました。自分の型、殻、生活、価値観に閉じこもり過ぎて、誰かを、不測の何かを受け入れる勇気と知性を持ち合わせていなかった。
つまり、自分以外の(大げさに言えば)世界とコミュニケーションをとる準備ができていなかったのです。

意思疎通が難しい人、自分の理解を超えた人を「わからない」「合わない」「人見知りだから」と投げ出していないか? いろんな人がいるという“当たり前”に、ちゃんとオープンでいるだろうか?
そんな自問とコミュニケーションの下準備の上に、仕事や恋愛や日々の生活がある。
そしてその上に、何かを作ったり演じることがあるのだと思います。

ありきたりな結論ですが、子供とコミュニケーションをとる方法は「逃げない」ということに尽きるのではないでしょうか。周り(大人)の目を気にせず、タイマンでのコミュニケーションを心がけることに尽きるのです。

みなさんが子役を前に、子供に「ありがとぉ」と言われて固まってしまう心優しいコンビニの店員さんと化すことがないよう、いつかの私と同じ轍を踏まないよう、祈っております。

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