INTERVIEW&COLUMN

2018.01.29

映画「嘘を愛する女」対談インタビュー 〜俳優のスキルを高めるには?〜 後編

—「感情は死んでも演じられない」—

中江:これから「芝居を学びたい、上手くなりたい」という若い人はどのようなアドバイスしたら良いんですかねえ?

田中:ワークショップやってると、頑固で変わろうとしないぞって言う人が多くって。でもそう言う人が演劇やりたがるんですよ。

延増:それ、たぶん私です。始めた頃の。自意識が強くて、人からどう映ってるかみたいなのをとっても気にしてお芝居をするっていう。

中江:今は気にしないんですか?

延増:気にしないです。

中江:いつその箍が外れたんですか?

延増:劇団のいいところは、定期的にちゃんと人前に立てるっていうのだなと思っていて。
私、本当にお芝居が出来なかった時期があって、何をやっても上手くいかないし、演出からダメしか言われないっていう、でも舞台に立たなきゃいけない時に、いろいろ自分で努力をするわけです。
でも、そういう努力とか、きっとお客さんは知ったこっちゃ無いなって思った時に、どうでもよくなりました。
私がどうとか、どうでもいいや、しょーもないって。観に来てくださるお客さんが1番だとやっと気づいて。

中江:そっから楽になったんですか?

延増:自分が1番じゃなくなったら嘘みたいに急にお芝居が楽しくなって、楽しくなったら急に世界が広がって、表現しやすくなりました。

田中:なんかそれと共通するかわからないんですけど、アメリカだと「感情は死んでも演じられない、あんたたちは感情表現者たちじゃないんだ、役者なんだから役者の仕事をしなさい」っていう有名な言葉があるんです。
「感情の自家発電は誰が観ても感動しない」ってその一言ですっごく楽になったんです。
感情は演じられないと言っても、感情はあるわけで、それを演じようとする事は捨てなさいという事だから、そうなると役者にできる事は事前には自分の役が置かれている状況などを沢山考えたり調べたりする事、現場では相手役とコミュニケーションを取る事、自分の感情は演じられないので相手をどうにかしようとする事くらいです。
その結果として勝手に動く感情だけが信用できるみたいな。
で、それが役者が操作する範疇にないというのは凄く気が楽です(笑)。

—「作ってない方が生きている」—

中江:台本もらったらまず何するんですか?

田中:下世話な話しですけど、最初に自分がどれだけ出てるかを見ます(笑)そしたら、頭から喫茶店行って、読みます。
最初の印象みたいなのはそん時しかないんで大事にとっておいて、そしてもう1回細かく読んで、自分のセリフだけ出して、歩きに行きます。

中江:歩きに行く?

田中:人のセリフは全部飛ばして、頭から結まで全部言えるようにするために。映像でも舞台でも大体一緒。全部記憶するんですよ。
記憶したら、見ないで言えるように、つまり、「思い出し」っていう回路が少しでも入ると、遅れちゃうんで全部出力になるように、思い出さなくても出てくるようにします。
矛盾するみたいなんですけど、自由になるためには絶対必要なんです。

延増:ほんとにそれですよね。

田中:入ってると思い込んでいても入ってないんですよ。そうなった時に、色んなこと言われると泡食っちゃって。
対応するには絶対セリフが入ってなければいけなくて、それは結構時間かかるんですよ。
それができた時にはじめて相手も認識出来るし、本番中でも自由に立ち回れる。ニューヨークの俳優もそれ全部やってるみたいです。

中江:覚える以外に、例えばこういう風な仕草で、とかこういう風に演じてみよう、などのシュミレーションは?

田中:例えば、どもりとかだったら、どもりの仕組みを、研究していきます。でも、シュミレーションは一切しないです。

中江:延増さんはシュミレーションする?

延増:しないですね、私も。私はまず、頭から最後まで、ト書きも声に出して全部読みます。それから、自分の台詞を全部頭の中に入れる。
考えるスキマなく全部早口で言えるように。感情はあとですね。

   

中江:このセリフだったら、途中でキレ始めるだろう、とか、読んでてわかるじゃないですか。それも練習していかない?

延増:しないです、平坦に覚えて行きます、まず。平坦にその言葉がなんの迷いも無く出てくるようにして、じゃないと、無理なんです、何も。セリフ覚えが特に私悪いんで。
それがあった上でじゃ無いと、相手が何言ってるとか全く聞けないし、監督が「座ってここまでを言って、立ってここまでを言ってくれ」とか、言われた時に全くわからなくなるんで。
わたしが勝手にこの台本を読んだ上での感情はひとまず置いて。

  

中江:映像ならはじめ、テストやりますよね、そのシーンを。
そこではじめて、あ、こうなるんだってはじめてわかるんですか? 感情のながれっていうか。

延増: 何回もずっと読んでたら、ここでこうなるかもしれないなって思うけれど、現場で本当にそのままそうなったっていうのは少ないかもしれないです。

中江:ある程度頭の中で作りすぎて行くと、現場で相手なり監督なりに違うことを言われた時に、困るから?

延増:わたしは、なるべく素で、何言われても、そうですねって思えるようにしたい。
違ったな、とかはあんまり思わないようにしてる。


中江:昔は作って行ってたんですか?

延増:作ってるつもりはなくて、多分勝手に。

中江:作るなって誰かに言われたんですか?

田中:自分で出来上がった映像観るじゃないですか。作ってるときと作ってないときの違いがあるんですよ。
作ってないときの方がほんとに生きてるように見えたんですよ、あ、こっちだって。自分で居るっていう感覚ですかね。
元は生きてる自分しかないんで、下手に加工しても、役者が加工してるようにしか見えないから。

—「映像と舞台の違い」ー

中江:じゃあ最後の質問。舞台と映像では、役者にとって何か違いますか。

田中:ぼく一緒です。全部。でも、映像は初めましての人の中でやらなきゃいけない。
舞台は1ヶ月一緒にいるんで、お客さんの前なので間違えられないっていう違いはありますけど、

 

中江:延増さんは違いますか?

延増:違います。気持ちが。出番の長い役だと舞台と同じ感覚になれるんです、心の流れがあるので。
でも映像でワンシーンだけ呼ばれると緊張がすごい勝つから、「この役の延増さんです」って言われると、ホントすいませんってなるんです。
突然現れた私が、みなさんが作って来た空気の中に入ることで、この世界を壊さないようにしようって感じちゃいます。
あと、何でここで瞬きしているんだろうとか、出来上がったもの見て思いますね。

田中:それはありますね。映像ならではの、瞬き絶対しないようにするとか。

中江:なるほど、長々とありがとうございました。

二人:ありがとうございました。

中江:「嘘を愛する女」は1月20日公開です。

※『嘘と寝た女』予告編より

田中壮太郎

1970年東京生まれ。1996年に劇団俳優座入団、2015年まで在籍。現在 is 所属。
主な出演映画に「ソロモンの偽証(前編/後編)」、「湯を沸かす程の熱い愛」、「逆光の頃」、「おとうと」、「京都太秦物語」など、
主なドラマに「トクソウ」(WOWOW)、「相棒」、「フリーター家を買う」など、
主な舞台に「さらば八月の大地」、「リア」、「東京原子核クラブ」、などがある。
俳優の他、舞台演出と翻訳も行う。

※『嘘と寝た女』予告編より

延増静美

1976年生まれ。大阪府出身。
2000年 大阪芸術大学工芸学科卒業。2004年、劇団『毛皮族』公演オーディションに合格。
その後、2013年までのすべての公演に出演。
現在は映像作品にも活躍の幅を広げている。
近年の主な出演作に、舞台「ジャガーの眼 2008」(作:唐十郎、演出:木野花)、「十二夜」(作:ウィリアム・シェイクスピア、演出:鵜山仁)、映画「アイアムアヒーロー」(監督:佐藤信介)、「フリーキッチン」(監督:中村研太郎)、 TVドラマ「三匹のおっさん3〜正義の味方、みたび!!〜」(TX)、「WOWGOW TV SHOW」(WOWOW)などがある。

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