INTERVIEW&COLUMN

2017.11.19

リーディングドラマ『シスター』の公演記念インタビューvol.2

———役者という生き方を選んだ中で、一番しんどい時と、一番嬉しい時を教えてください。———

まず、しんどいと思うのは、自分一人だと何もできないということを実感するときです。
すごい実力を持って、天才的に芝居が上手くても、仕事がないということもある世界ですから。
役者はボートを漕いでいるようなものです。
ボートを漕ぐ時は、荒波があったり、風向きが違ったりすれば全然進まないですよね。
同じように、役者は色々な要素が含まれている中で仕事をしているので、必死にやったからこそ結果が残るというわけではありません。
運や周りの人の協力も必要ですし、物理的に芝居では相手役がいて成立する部分があるので、一人でどうこうしようとしてもできない。
これが、ときにいい部分でもあり、大変な部分でもあります。

嬉しいと思うのは結果が出て、その作品が評価されることです。
ただ、嬉しい気持ちはありますが、僕としてはその芝居はもう終わったものなんです。
作品、舞台を見にきて褒めていただいても、その余韻に浸っているほど現場もゆっくりではないですし、次の仕事に向かっていかなければいけない。
そう思うと、評価していただけるのは嬉しいですが、過信というか、次には引きずりたくはないですね。
褒められて天狗になる程簡単な仕事ではないので。
なんでやっているんですかね(笑)。

———ある時から演劇の方に力を入れ始めたのは、何か理由がありましたか?———

二十歳くらいの時に朝ドラ「ちりとてちん」で、ヒロインの弟役を演じたんです。
そしたら周りが舞台俳優さんばかりで、松重豊さんやナイロンの松永玲子さん、MOPのキムラ緑子さんなど、名だたる方達と共演させていただくことになりました。
僕はその時舞台というものを知らなかったのですが、「一回舞台見たほうがいいよ」と言っていただいたことで、その繋がりの方達の舞台を見に行くようになったんです。
そしたら、舞台には大きいものから小さいものまで色々あるんだなといったことや、役者としての幅の広さ、本当に実力が問われるということを知り、興味が湧いてきました。

そこから舞台を始めることになるんですが、その数年前、18歳くらいで初舞台を踏んだ時、スタッフさんに「お前舞台見たことないだろ。」と指摘されたことを思い出しまして。
映像とはまた違うので、動き方や見せ方がわかっていないということが芝居に出てしまっていたんです。
なので、二十歳になってやっぱりこれは舞台をたくさん見に行かなければいけないと思うようになり、朝ドラの共演者のきっかけもあって「ノルマとして舞台を年間100本見よう」と決めたんです。
それを5年くらい続けていると、自分がやりたい舞台の方向性や、この演出家とやってみたいという気持ちが明確になりましたね。

———年間100本観劇を5年間続けたんですか!?———

はい、今はちょっと減って年60〜70本ですが。
やっぱり営業も舞台の場合はやりやすいんですよ。
演出家の方は飲み屋に行けば大体いるので。
そこで、「さっき舞台見ました。僕、役者をやってる者なんですけれども。」って話しかけるんです。
そうすると初対面でも「面白いな、お前何やってるんだ?」って話してくれたりします。
小劇場に関しては役者側と製作者側が直に会って話せる機会というのがすごく多いので、話すうちに「出してください!」とお願いして、承諾してもらう。
という流れで年間5、6本の舞台を踏むようになっていきました。
自分営業というとおこがましいんですけど、やりたい人とやってみたいなという興味から、仕事につなげる。
最初に興味としてやってみたかったのが、運良く身を結ぶようになりました。
そこから舞台に進みたいという気持ちがより強くなっていきましたね。

———ノルマを決め、5年間で約500本以上の舞台観劇を続けたことで多くのものを得られたと?———

まずお金が一気になくなりました(笑)。
だけど、自分への投資ですからね。
舞台を見てないと飲み屋でまず話せません。
お前あれ見たかって言われた時に無言になってしまったら負けなんですよ。
「あれも見たし、この間のやつ、先輩は見ましたか?」というように逆に返せるくらいに見ておかないと、若手俳優が飲み屋に行った時に、先輩俳優に通用しません。
なので、先輩の2、3手先をいっておかないとダメだなと思っていました。

それで、そんなやりとりが回数を重ねると逆に聞かれるんです。
「あつし、最近なんか面白いのあったか?」と。
「この作品よかったですよー、これの〇〇さんよかったんで興味あるんですよね。」と答えると、「じゃあ俺も行こうかな。」と言ってもらえる。
そこから情報が入ってくるようになったりして、コミュニティが一気にできていくので、面白いですね。
でも、あんまり他の俳優さんにこれをいうと営業のやり方がバレてしまうので、あんまり言いたくないんですけどね(笑)。

———舞台と映像での役者としての違いはなんですか?———

芝居の質としてはほぼ変わりはないですね。
内情をいかに作って、相手役ありきでどう会話を積むかというベースラインは変わらないです。
ただ、舞台が映像と違うのは、お客さんが引きで遠くから見ているので、役者の顔がほぼわからないということです。
そうなると舞台では、音や動きといった「見せ方」による工夫が必要になりますし、生の演技であるがゆえの鮮度ということが大きな違いになってくると思います。
例えばセンテンスの切り方や、音の高低、音色、緩急など、舞台では全部を使います。
普通に右を向くというだけでも正面から右を向くとちょっと小さい(90度)のですが、その前の芝居で軽く逆にふっておくと、180度近い表現になり、見せ方が変わります。
そういった表現をどう入れ込むか。
無駄な動きをした瞬間に一個いらない情報が入るので、その取捨選択が自分でできるのが舞台の楽しい部分、醍醐味です。

映像に関していうと、映像も舞台もリアルに感情を動かすというのは当たり前なんですが、画角が決まっている中でのリアリティを追求することに特化しているのが映像だと思っています。
例えば、コップを取るシーンにしても、画角がアップだとその姿が映らないことがあると思います。
自分のリアルはこの位置だけど、カメラマンさんの中ではもう少し上の画角で撮りたいと考えている。 そうなると、カメラマンさんからもっと上げてくれ、などの指示がきますよね。
というように、そのときカメラマンさんが決める画の中に役者としての自分のリアルさをどう出すか、これが舞台との違いだと思います。

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