INTERVIEW&COLUMN

2017.11.22

「見ないと人生損する映画 その2」

「キャラクターが書けてない」
「キャラクターがステレオタイプだ」
「キャラクターをもっと面白く出来るだろ」
脚本直しの際、プロデューサーから何度も言われたことだ。

魅力ある「キャラクター=役」を生み出すことはとても難しい。
なぜなら「キャラクターが映画を決める」と言っても過言ではないからだ。
シド・フィールドの「映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと」という本によれば、脚本に取り組む際はまず、キャラクターの年表を思いつくままに書け、とある。
生まれは〇〇で、親はどういう職業で、初恋の人はこういう人で、
学生時代は〇〇部で、こういう欲望を持っていて…という具合に。
シド・フィールドは、一人の人物について両親とその両方の祖父母から初めて、
20ページは書くらしい。
私もそれに習ってやってはいるが、(数ページしか書かないけれど)
一人で書いているとどうしても限界がある。
このキャラクター前に書いたのに似ているなとか、
何かの映画で見たことあるなとか、
すぐにペンを投げ出し、部屋の掃除を始めてしまうことになる。

マイク・リーというイギリスの監督がいる。
カンヌ映画祭で何度も受賞している巨匠ではあるが、
彼の映画には「脚本がない」と言われている。
脚本がない、とはどういうことか、私は予てから気になっていた。
(簡単な設定はあるらしいけれど)
マイク・リー映画の常連である、ティモシー・スポールさんに
とある映画祭でお会いすることがあり、そのことを尋ねた。

中江「あなたはマイク・リーの映画によく出ていますよね」
スポール氏「ええ」
中江「彼はどのように演出されるんですか?」
スポール氏「どのようにというと?」
中江「脚本がないって聞いたんですけど」
スポール氏「ないよ、ゼロだ」
中江「じゃあ、どうやって作っていくんですか」
スポール氏「それはエチュードとかインプロビゼーションとかでだ。
   リハーサルに6ヶ月ほどかかり、残りの3〜4か月で撮影する。
   だから彼の映画は、ほぼ1年かかるんだ」
中江「え、1年!」

確かにマイク・リー映画のパンフレットを見直してみると
「秘密と嘘は」5ヶ月、「人生は時々晴れ」は6ヶ月、「キャリアガールズ」は4ヶ月半、
キャラクターを作り込んでいく準備期間に費やした、とある。
マイク・リーは一人でキャラクターを考えるのではなく、俳優と共に作り上げていくようだ。
どこで生まれたと思う?どこの学校に通って、趣味は?欲望は?
そんなことをディスカッションする。
じゃあ、どんな服を着ていると思う?
服を選ばせ、それを着て即興演技をやってみる。
そんなことを半年間、延々と行う。脇役に至るまで全員と。

マイク・リーも、「頭が変になるくらいきつい仕事」だと言っている。
でも、きっとそこには、
監督が一人で悶々と机の上で想像したことでは生まれない「何か」がある。
俳優が自らの肉体を通して、半年間の間、考え、感じ、産み出した「何か」が。
その蓄積が、成熟が、映画に命を吹き込んでいく。

しかし、大抵の映画であれば、
俳優は監督から役の設定を与えられ、
用意された衣装を着せられ、
撮影当日に「ここがあなたの家ですからね、自分の本当の家だと思うように」と言われ、
どこに何があるのかも把握できない間に、カメラは回り始めている。
そして挙句に「その役はそんな風には振舞わない」などと無下にダメ出しをされる始末。

それでも、長い物語だと撮影中にキャラクターを掴んでいくということもあり得るが、
私が普段生業にしているCMは、撮影期間は大体1日しかなく、長い脚本があるわけでもない。
一枚のペラリとしたコンテを前に、俳優は何を思うのだろうか。
私にできることはせめて「キャラクター年表」を書いて事前に渡すことくらいしかない。

キャラクターこそ彼の映画である。
どうか皆さんマイク・リーの映画をみてください。

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