大崎：酒井さんが一緒に作品を作っていきたいと思う俳優さんはどんな人ですか？

酒井：場に責任を持って一緒に作ろうとしてくれる人です。同志として。お客さんとしてくるのではなくて、ちゃんと脚本を読んでくれて「私はこう思うんですけどどうですか？」「こうしたら良くなると思うんですけど」とか意見を言ってくれる方が好きで。そういうのを嫌う監督ももちろんいると思うんですけど。

大崎：台本を読んで“自分がどう動いたら作品が良くなるか考える理解力”を身につけるのは大変なんですけど、それはどうすればわかるようになると思いますか？

酒井：自分が目立ちたいとか、こう動いたら自分おいしい、って思っている人って、映画を観る人の心があんまり見えていないと思うんですよ。外見だけじゃなくて内側の心でこの映画を観てもらって感動やワクワクを伝えようと思ったら、自分を中心にした動き方にはならないと思うんです。そういう人は思いやりが足りない、って私は思っています。

大崎：何に対しての思いやり？

酒井：お客さんの心。そして現場のスタッフ、脚本に対して。脚本の中の登場人物に対しても。思いやりが足りない。

大崎：なかなかきっかけになる作品に出会えていない俳優さんに対して、酒井さんなら何と声をかけますか？

酒井：私の今の目標でもあるんですけど、場を待つんじゃなくて“場を作りに行きましょう”って言いますね。

大崎：要するに自分からチャンスをつかむ行動をしろ、ってことですよね？

酒井：う〜ん、チャンスをつかむ行動をしなさいっていうと「うっ」ってなっちゃう人もいると思うんです。視点を変えて考えてみると、あなたがもし自分の好きな監督や好きな作品を作る人だとしたら、あなたと出会いたいとしてもあなたが手を上げてくれないから出会えない、だから手を上げてほしい、と思うはずなんです。つまり、知り合えないと声すらかけられないから、知り合える場所に来てほしい。ワークショップとかエキストラとか色々あると思うんですけど、最近思うのはやっぱりSNSで。『いいにおいのする映画』の吉村界人くんも、当時は事務所に入りたてだったんですけど、自分がこうなりたいっていう人物像になろうとするパワーが凄まじかった。

大崎：酒井さんは『はらはらなのか。』で商業デビューをされたと思うんですけど、何か変わりましたか？

酒井：心境的には変わってないです。何でかというと、『棒つきキャンディー』を撮った時からずっとそうなんですけど、“これで行ったるで！”っていう気持ちしかないから。どの作品もアカデミー賞に引っかかってほしいっていう心でずっとやってるから、変わってないです。ただ、予算がない事の厳しさを知ったので、表現したい面白い映画を届けるために、予算を上げていけるように頑張ろうと思いました。

大崎：今度どんな作品を撮ってみたいですか？

酒井：私はもうファンタジーで生きていくのは決めているので、今脚本を書いてるんですけど、次はちょっとセクシー（性的）なやつをやりたいですね。変にいい子ぶらないやつを。

大崎：でもその要素っていうのは『いいにおいのする映画』にも『はらはらなのか。』にも感じていて。酒井さんの作品には、そういうシーンがきちんとあって逃げてない、っていう気がするんだよね。そこがいいと思うし、逆に言えばもっと突っ込んで欲しいと思ってた。

酒井：そうですよね、そこをもっと突っ込んでいきたいんです。

大崎：酒井さんが映画づくりで大切にしていることは？

酒井：14歳の少年少女たちが、信じたいけど信じられないという瞬間に立ち会った時に、信じたいという希望を与えられるか、ということだけをいつも考えています。今は14歳という年齢はあまり気にしていませんが、子供、大人っていうことを抜きにして、信じたいけど信じ切れない瞬間にどうやって希望を持つことができるかっていうことを考えています。

大崎：最後に、酒井さんが監督であることで映画にかけられる魔法はなんですか？

酒井：極論を言うと、願望を具体化することでしかなくて。私はずっとファンタジーを信じていて、自分の頭の中にある空想世界をいかにして現実世界で肉眼で観れるようにするのか、っていうことに命をかけています。私の観たい世界とお客さんが観たい世界がどこかで繋がって実現できたらいいな、と思っていて。映画を観て心を動かされる瞬間が“魔法”だと思っているので、そういう意味で私は魔法をかけられるようになりたいです。