INTERVIEW&COLUMN

2018.02.23

ハリウッドスター 〜俳優・真田広之さん〜

CM業界に入って2年目の頃、真田広之さんとお仕事する機会があった。
当時私は監督という立場ではなく、PMのアシスタントをしていた。
(PM=プロダクションマネージャーとは助監督と制作部を合体させたような職種)

真田さんは、映画「ラストサムライ」に出演された少し後で、私にとっては、初めてのハリウッドスターという感じだった。
最初、企画の説明に伺った時、真田さんはビシッとしたスーツにサングラス姿で登場された。
私は思わず「うわー、カッケー!」と叫びそうになった。
真田さんの胸板はかなり厚く、シャツが左右にぴっと張っていたのを昨日のことのように覚えている。

真田さんが演じる役は、「真面目な公務員」。
月に2度は散髪に行き、襟足はスカッと刈り上げ、趣味は読書、脱いだ服は丁寧にたたむような几帳面な人、という裏設定。
服装も地味な綿シャツに、履き古したチノパン。
普段の真田さんの見た目とは程遠い役柄だ。

衣装合わせの日も、真田さんはビシッとした格好で来られ、奥の部屋でその地味な衣装に着替えようとした。
おもむろにスーツを脱ぎ始めた真田さんを見て、衣装部のアシスタントであるH君は、驚いた。
真田さんはスーツの下に白いブリーフを履いていたのだ。
小学生が履いているような真っ白のブリーフを!

Hくんの顔色を察した真田さんはこう言った。
「普段からこういうパンツを履いているわけではないんです。この役の人なら、このパンツを履いているだろうと思って、今日は履いてきたのです」

なんたることだ!
ズボンを履いてしまうからパンツなんて誰にも見えないのに。
しかも今日は撮影日でもなく、衣装合わせだというのに!
なんという役へのアプローチ!
おそらく、そのブリーフもどこかのスーパーでご自身で購入されたに違いない。

しかもすごいのは役作りだけではない。
あんなスターなのにホテルに泊まった時も、ご飯もみんなと一緒に大広間で食べるし、頼まれてもいないのにマイクでギャグを言って皆を楽しませるサービス精神。

撮影中は、ずっと川原に寝転んでいるだけなのだが、カットがかかっても起きようともせず、カメラアングルを変えている間も、そのまま自主的に何時間も寝転んでいらっしゃった。
僕は気が気でならなかったので、マネージャーの方に尋ねたら、笑顔で「ほっといて、大丈夫ですよ」とおっしゃった。

本人もスゲー上に、マネージャーもスゲー!
他の俳優に同じことをしようものなら、キャスティングや事務所の方から文句でまくりだけれど、真田さんは違うのだ。

後日、家でテレビを見ていたら、チェン・カイコー監督の映画に出ている真田さんのドキュメンタリーをやっていた。
あるシーンを撮るために真田さんはチャン・ドンゴンとともに馬にまたがっていた。
しかし、吹いてほしい風が一向に吹かない。
待てども待てども吹かない。
真田さんは、馬から降りることなく、3、4時間もの間じっと風を待ったとか。
いや〜、すげーな真田さん。
ハリウッドスターなのに飾るところが一切ないし、過酷な撮影なのに文句一つも言わない。
私は、真田さんを見習って、毎日、白いブリーフを履こうと誓ったのでした。

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