1月19日、熊本県上天草市で初となる映画祭「上天草ムービーフェスティバル」が松島総合センター・アロマで開催された。映画を通して上天草の風景を広く発信し、交流人口の増加に繋げようと市などが企画。市内で撮影された作品短編映画４本と、開催前日に撮影されたオリジナル短編を上映するという面白い試みとなった。

上映作品の一つであり、今回の映画祭開催のきっかけになった平田満主演短編映画『島のシーグラス』（2018）は上天草市の地域活性化を目的に製作された作品。

上天草市は人よりも猫が多いと言われる猫島（湯島）が有名だが、人口は2万7000人ほど、離島・湯島の人口はわずか300名と過疎化が深刻。『島のシーグラス』は移住に関する支援や活動の一環として、東京から映画製作者を招いて製作されたものだった。市はロケーション提供・食事提供・エキストラ協力、美術協力などを支援。
完成した作品は、国内外の映画祭で多数の映画賞を受賞した。【ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2019/ひかりアワード受賞・小津安二郎記念蓼科高原映画祭/入賞・とよはし映画祭/観客賞】

今回、それがきっかけとなって上天草市初の映画祭が開催されることになった。映画祭の上映作品を前日に撮影するという試みには全国から150の応募があり、オーディションで男女8人の俳優を選抜。
『島のシーグラス』の榊原有佑監督、俳優の阿部進之介さんを講師に迎え、映画祭上映を目指して3日間かけて演出講義、演技ワークショップが行われた。

8分の作品で、1・2名の出演シーンが連なる構成。台詞が繋がって他の人物とリンクしていく。必要最小限の台詞しかない脚本で、「なぜその台詞を言うのか」「このシーンに至るまでどんな経験をしてきたのか」を考える機会が与えられた。
俳優たちは役と向き合って人物背景を想像して、実際の撮影をする場所で冷たい風や島民の声、磯の香りを感じながら役作りをした。自分が出演していない時間はスタッフとしても映画に参加し、制作の裏側も経験した。
夜は相部屋に宿泊した。同じ釜の飯を食べて、一緒にお風呂に入る。共同生活の中で互いを思いやり過ごすことも学んだ。それは映画制作が多くの人に支えられていることに通じている。

「上天草ムービーフェスティバル」当日。長編映画「声」、短編映画「ブレス」「平穏な日々、奇蹟の陽」「島のシーグラス」などの上映。「声」監督/越智康雄、出演/山田みはる・「ブレス」主演女優/黒澤はるか 「平穏な日々、奇蹟の陽」監督/榊原有佑・「島のシーグラス」主演女優/田牧そら 「ワークショップ作品」講師/阿部進之介、ワークショップ俳優らが登壇した。

前日に撮影をした作品が大きなスクリーンで上映され、一連のプロジェクトの成果を最大限に感じることが出来た。地元の方と共に鑑賞し、反応を感じることが出来たのは有り難い経験である。
地域の人にとっても、普段の風景や暮らしがスクリーンに映し出されると、今まで気付かなかった地元の魅力を発見できたという。
初めての開催にも関わらず、動員250名を達成。運営にも多くの市民が参加し、地元9店舗による屋台、小学生のステージ発表、高校生有志による装飾や当日ボランティア。
屋台では上天草市・幻の地鶏「天草大王」を使った料理や、天草ならではのポルトガル料理、湯島のかすみ草や湯島大根など人気店が集結し、完売が続出した。
４日間の短い時間ではあったが、映画撮影から上映まで一連の映画製作を経験することが出来、全国から集まった俳優たちは非常に大きな達成感を感じていた。

■榊原有佑監督コメント

今回のプロジェクトに参加した役者の皆さんが自分たちの言葉で「ビルも何もない自然溢れる湯島で過ごして、日常を忘れて、自分と向き合えた」「人が優しくて温かった」と感想を話してくれたと嬉しそうに話してくださった地元の方に出会いました。
お客さんの中には東京から来たという20代の男性も。「介護の仕事をしていて、芸術や映画が自分の仕事に役に立つんじゃないかと思って今朝東京からきました」と話してくれました。
また福岡から来たという方は、帰りに農家さんの湯島大根を買われ、「宣伝しますね」と言って下さったようです。

湯島の小学校の子供たちは『島のシーグラス』の出演者、田牧そらさんが持ってきてくださったお土産のお礼に手紙をみんなで送ったり…。場所が離れている人々が今回上天草に集まり、小さな思いやりのやり取りが幾つも繋がって、今後の広がりを感じることが出来ました。
上天草市の有志で結成された映画祭実行委員会のメンバーも大きなやりがいを感じたようで、皆さん結束されていました。この「人」のエネルギーこそが地域を元気にしていきます。